2010年11月24日

酒樽屋が酒樽をつくる

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弊店の樽は全て吉野杉で作ります。
殊に重要な側面の「榑(くれ)」と呼ばれる箇所は、奈良県吉野郡川上村の原木のみ、
ごく稀に近隣の黒滝村、東吉野村の杉を用いる事もあります。
この三ヶ所の杉のみ、江戸期から樽材として植林されて来た杉です。
樽の需要が減ると共に建築材への転用が増えて立場が逆転しましたが、
近年、建築材も外材に押されて内地材の使用が減り、樽材の立場戻って来ました。
残念ながら、酒樽は固定価格なので樽材も余り高価な原木は使用出来なく、
更に良い原木自体が入手困難になって来ております。
吉野地方の木材市場に良質の杉が出品されなくなり、
樽丸業者がたいそう困惑している状況です。
幸い、弊店は自身の山林から酒樽に相応しい吉野杉を直接伐採し、皮を剥いて、
山中にて乾燥させ、ヘリコプターを利用して麓まで降ろします。
命をかけた仕事です。
杉に限らず、材木は麓からではなく、奥地から順に伐採しなければならないので、
切り出し作業が困難です。
ロープを張って他人の山の上を通過して降ろすと通過料を請求されます。
急いでいるときはヘリの方が費用はかかりますが、手続きが容易です。
最近は切り出し専用の林道を造る方式が採用されています。

建築材として植林していたので直径が約1メートル位の百年ものを贅沢に使います。
木目も密集していて色も良く,良い手入れが施されていて高価ですが、
作業はむしろ楽になります。
酒樽には本来60年〜70年ものが最適と言われていましたが、
適度な材を入手出来ないので仕方がありません。
��0年以上前の原木は径が大きい事と白太が経年により変色しているので良質の甲付材を多く取る事が出来ないという問題も含んでおります。
ちなみに百年以上の杉は老化が始まっているため、酒樽には適しておりません。
 
その後、四斗樽用、二斗樽用、一斗樽用、
及び二斗ハンダルセット用の四種(四斗ハンダルセットは一斗樽)の長さに切断し、
それをミカン割リにします。
その後、一番外側の白太は柾目に割り、桶に。或いは箸に使います。
外が白太で中が赤味の「甲付材」を最初に割り、続いて直ぐ中の赤味を割ります。
甲付材は一本の原木から一ヶ所、赤味材を二三枚取ります。
専用の刃物「銑(せん)」を用いて、仕上げ充分な風と日光にあてて乾燥させます。
 
蓋(ふた)と底は廉価に作る必要がありますので、吉野材の中でも一段階低い
原木を、今度は割らずに製材所で電動鋸によって挽きます。
これも充分な乾燥を経て、選別し例えば四斗樽の蓋ですと径が大きいので、数枚の板を竹釘を用いて継いで行きます。
これに鉋をかけて帯鋸で回し、丸く加工します。
人体に悪影響を与える接着剤等は一切使用しません。
アトピーやハウスシックの方に大変迷惑をかけるため、たとえ手間が何倍もかかれども化学物質は一切使用しないことにしました。
杉は柔らかい木ですから竹箍(たが)で樽を締める際に木目が圧縮されますので、
完成した樽を丸く仕上げるためには、底と蓋(ふた)は微妙な寸法ですが、楕円に加工しなければなりません。
底と蓋(フタ)の材料は樽丸をミカン割した際に木目が歪んでいたりする物も出て来ますので、これを利用する事も最近では増えました。
側も底蓋も原木の質。その年の気候、乾燥させる場所によって様々です。
完全に乾燥してしまうと酒樽特有の木香が抜けてしまい。乾燥不十分ですと、樽に狂いが生じますし、場合によってはカビ等が発生する原因になります。
カビと思われているうちの殆どが、杉の「アク」であり、カビは殆ど発生しないよう留意しております。
 
吉野杉は秀吉の時代に樽の材料のために日本で始めて本格的な人口植林をはじめたものです。この中心になったのが吉野郡の奥地である川上村です。
��000本の苗木を手入れして百年がかりで一本の銘木に育て上げます。
建築材にその地位を奪われましたが、最近また価値を見直されて来ました。
底と蓋(ふた)の一部は価格と材料不足のため、吉野郡の麓の材も使用します。
 
酒樽の場合、カビが最も発生し易い箇所は竹箍(たが)です。
内部に影響がないので、ビニール等で密封しなければ発生を防ぐ事が出来ます。
石油系化学物質は一切使用しないで江戸明治の手法に戻す事に致しました。
 





2 件のコメント:

  1. たるや日記、おもしろいです。もともと実家は樽丸屋だったので、なんとなく懐かしく思い「酒樽」や「吉野杉」など、と打ち込んで検索していると<樽や日記>に到達。その仕事をしたことないので、子供心に「赤・黒・甲つき・・・そんなに違うものかな~」なんて思っていた記憶がよみがえります。そういえば灘にもよく納めていたような・・・。吉野杉いいですね。川上いいですね。先祖は川上高原出身です。最近は林業は衰退し、樽や桶などそういった日本ならではの文化や技が少なくなっていくのが寂しく思っていた今日この頃です。しかし元気な樽やさんを見つけてうれしい限りです。これからもぜひご活躍を期待しています。いまはデザインの仕事をしているので日本ならではの職人技をつかった、新しいものを考えたくなります・・。そんな企画があればぜひ一緒にやらせてください。 
    ��s
    ところで樽の価格は思っていたより安いですね。
    こんなものなんですね~微妙な感覚(笑)
    個人的には尺5の大きさのバランスが好きでした。

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  2. つぼ様
    コメントありがとうございます。
    ご実家が樽丸屋さんだったとは驚きです。
    樽丸や、ましてや尺五などという謂いは専門の方以外使いませんよ。
    確かに一尺五寸は見事な寸法です。45、5センチとは全く異なります。
    無理に換算しても日本古来の物はセンチで作ると奇妙な形になるのです。
    吉野杉の樽丸でなければ良い酒樽は出来ません。
    吉野地方には沢山の樽丸屋さんがあり、灘にも多くの酒樽屋がありましたが、
    吉野杉の木樽の良さを理解してくれる方が減って来て残念です。
    川上高原とは役場のすぐ近くですね。よく行きます。

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