2009年1月17日

樽(たる)づくりにも、人間にも「水」は不可欠である

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木製樽(たる)をつくるのに、木と竹だけがあれば良いというのではありません。
何種類もの道具が必要なのは当然ですが、忘れてはならないのが「水」なのです。
人間も「水」が無ければ生きては行けません。
料理屋さんや洗濯屋さん、酒造メーカー等、挙げはじめればキリがないほど、多くの仕事に「水」は欠かせないものです。
樽屋でも「水」が無ければ仕事になりません。

「側」を立てて「樽(たる)」の形を作る時、底や蓋を(ふた)をこめる時に木の先を湿らせます。
出来上がった木製樽の「洩れ」を検査する時には樽(たる)に水を入れ空気を送り込んで洩れている部分を見つけます。
但し、余り沢山の「水」を使う職人は「腕が悪い」と昔からいったものでした。
出来上がった「樽」が湿気を多く含み、乾燥し易く長持ちしないからです。

この頃のような寒い時期には、比較的温暖な神戸でも雪が積もる事がありますので、上の写真右側に見える桶の中の水も凍ってしまいます。
こうなると作業台が凍結しますし、前述の「樽吹き」と呼ばれる「洩れ」の検査も不可能になり、製樽作業が全く出来なくなります。

人間より、酒樽など木製樽のことだけを重視して、日陰の北向きに建てている酒樽屋の建物では尚更です。

今でこそ、暖房の設備が整っているので作業不能という事態にはなりませんが、
数十年前は、作業場の水が凍ったら酒樽屋は休業と決まっておりました。
また、朝から作業していても桶の中の水が凍った時点で樽職人は全員帰宅するという習慣がありました。
樽づくりは真冬でも汗びっしょりになる仕事ですから、職人達は決して寒いという理由でサボってしまったのではありません。
したくても仕事が出来なかったのです。

唯一、例外は1995年の阪神淡路大震災の後です。
最も貴重な水を使う訳にはいかないので、復旧作業の合間に不自由な工程で仕事を細々と続けました。
仕事場を喪った近所の樽屋の職人たちが数人「竹十」の作業場を借りに通って来ました。
奇跡的に「竹十」だけが神戸では唯一、損壊しなかったからです。

たるや竹十では江戸時代に建てられた美しい木造の蔵が四棟壊れました。
幸い、竹十の作業場は殆ど無傷だったので、宮水を使って樽づくりを続けました。けれど、生活に必要な水も確保出来ない環境でしたから、実際は開店休業でした。
木製樽は品薄のポリバケツの代りに貯水用に使うという状態でした。

震災から14年が経ちます。

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