2009年4月5日

酒樽屋 さる塔頭の桶を修理する

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京都、宇治の寺院から、寺の什器である桶の修理依頼がありました。
どの世界でも同じですが、他の職人がつくった物の修理ほど困難な作業はありません。
最初から新しい物をつくる方が楽です。
懇意にしている方を介しての依頼だったので、とにかく引き受けました。
先ず、清酒の蔵元から譲ってもらってきた、米の粉(精米の際に出ます。煎餅の材料になるという噂がありますが、「おかき」の原料に関しては不明。)
を水で溶いて「そっくい」という食べる事も出来る接着材をつくります。
「そくい」(続飯)が訛ったものでしょう。「そくいい」又は「そくい」とも呼びます。

��続飯」は米粒を箆(へら)で潰して練り上げたもので、「姫糊(ひめのり)」ともいいます。
また別に小麦粉から作られる「腐糊(くされのり)」と呼ばれる接着剤があります。
これは小麦粉を「寒の水(かんのみず)」に溶いて静置し沈殿した澱粉質を煮てから
甕(かめ)に入れ、土中に埋めて3年ほどで完成させたといいます。
腐糊は書物の装丁や掛軸の表装の際などに、続飯は家具や建具の木材接着に用いられてきました。
そのため日本では「糊着(こちゃく)」という呼び習わしがあります。

この前のバラバラの状態を撮影する事を忘れました。
側を元の順番に戻すために「タガ」の跡形を手がかりにパズルのような作業があったのです。
苦労して、元の順番に戻す事が出来ました。部材が一枚も欠損していなかったのが幸いです。
大概、一枚か二枚は欠けていて、その部分にだけ違う材料を持って来なければならないからです。
これが一番やっかいな作業になります。
それでも経年の乾燥により、側が若干やせて、少なくなっております。
この点は部材を増やす手法を避けて、底を小さく加工するという方法を選びました。


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残飯があれば、それを溶いておいて何でも昔はこれを糊の代用品として普通に使っておりました。
今回は急いでいたので省略し、ただ米粉を水で溶いただけなので少々「まだら」です。
充分な道具が揃わないので、接着が目的ではなくて、ただ組立て易ければ良く、とにかく隣同士の側が離れなければ良いだけですから、この程度で許してもらいました。
二つに割れていた、底も一枚に戻しました。

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樽や桶をつくる際は必ず、二本の仮輪が必要です。
口の仮輪は元々付いて来た古い竹の物を利用しましたが、
底には「竹十」が昔使っていた物を探し出して来て二人がかりで嵌め込みました。

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後は新しい竹タガを巻いてはめて行き、
長い時間が経って支障が来ている部分を丁寧に修正していきます。

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古い感じで時代感を出して欲しいという修理依頼だったので、敢えて最後の仕上げは施しませんでした。
はみ出した「そっくい」を拭き取るだけで出来上がりです。

この作業は樽屋の仕事ではなく、桶屋の仕事、桶屋の中でも「こんこん屋」の仕事で、
昔は、この種の桶の修理は全て断っておりましたが、
古い道具を分解してみると意外な発見があったり、
こんな手法があったのかという勉強になるので、なるべく引き受けるようにしております。
古い樽や桶は我々にとって最良の教科書なのです。
部材が揃っていたこともあるので修理費用は格安にしました。
桶屋は樽屋以上に減って来ているので、修理の依頼先がなく
「竹十」が引き受けざるを得なくなっているのも現実です。

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