2009年9月3日

李白と酒樽

800px-Libai_shangyangtai.jpg北京 故宮博物院(旧紫禁城)蔵

前有一樽酒行二首其二 李白

李白の雑言古詩に詠ふ。

 「前に一樽の酒有るの行(うた)」

  琴奏龍門之綠桐  琴は奏す 龍門の綠桐
  玉壺美酒清若空  玉壺の美酒 清きこと空の若し
  催弦拂柱與君飲  弦を催し柱を拂って君と飲む
  看朱成碧顏始紅  朱を看て碧と成し顏始めて紅なり
  胡姫貌如花     胡姫は貌(かんばせ)花の如く
  當壚笑春風     壚に當たりて春風に笑ふ
  笑春風 舞羅衣   春風に笑ひ 羅衣を舞はしむ
  君今不醉欲安歸  君今醉はずして安(いづく)にか歸らんと欲する
 
李白は杜甫に「李白一斗詩百篇」と「飲中八仙」の中で詠はれる程の酒好きで有名ですが、
当時の一斗は現在の約18,039.......リットルより遥かに少なかったそうで、
一斗樽詩百篇ではなかった訳です。
李白に限らず、漢詩に度々出て来る「樽」は酒を象徴した謂いで、
よく「金樽」とか「一樽」とか詠まれていますが、「一壷」と同じ意味でしょう。
同じく、杜甫が李白を詠んだ詩。ここにも「一樽」が出て来ます。

 
 春日憶李白 
   白也詩無敵         白や詩敵無し
   飄然思不群         飄然として思ひ群せず
   清新愈開府         清新なるは愈開府
   俊逸鮑参軍         俊逸なるは鮑参軍
   渭北春天樹         渭北 春天の樹
   江東日暮雲         江東日暮の雲
   何時一樽酒         何れの時か一樽の酒
   重與細論文         重ねて与に細かに文を論ぜん

ところで、「李白」という銘柄の清酒がありますが、島根県松江市の蔵元が醸造しているものです。

2009年8月29日

夏休みの終わり

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朝晩、涼しくなってきますと夏休みも終わりに近づきます。
宿題が未だ出来ていない子どもたちも多くいることでしょう。
毎年、この時期になると酒樽屋であるということから知り合いに頼まれて、
工作の宿題の手伝いをするのが常なのです。

今年は近所の蔵元の企画で小学生達に工作を教える機会がありました。
使用する素材は酒樽を作る時に出る端材の数々です。

上の写真のうち、左端は酒樽の蓋(ふた)の一部。真ん中は木栓類、
右端は左側の酒樽用蓋(ふた)に穴を開ける時に出来るもので面白い形をしているので、私も子どもの頃は自動車や自転車の車輪に見立てて様々な物を作ったものです。


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2009年8月28日

修理中の樽太鼓

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今日は実際に樽を修理します。
どちらも一斗(小)樽太鼓です。
左の樽太鼓は蓋(ふた)が傷んでいただけなので、新しい蓋(ふた)に取り替え、
更に汚れた樽の表面を銑(せん)を使って一皮むき、最後に新しい青竹を入れ直します。
このように修理をいたしますと新品同様に生まれ変わります。
但し、この再生方法は一回限りです。樽太鼓の側面がどんどん薄くなりますから、
何度も繰り返すことが出来ないのです。

右側の樽太鼓も一斗(小)ですが、樽の側面が折れています。
箍(たが)が強過ぎたのか、樽側が不良だったのか理由は不明ですけれど、
折れてしまっています。
この状態を樽屋は「ドサ」と呼び、一番困った状態です。
当然、悪い部分を取り替えて最初から作り直さねばなりません。

修理は一つひとつ充分に手をかけてやらねばならないのですが、すっかり再生された樽をみるのはうれしいものです。

2009年8月25日

修理を待つ樽太鼓

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各地の小学校から、新学期に使う樽太鼓の修理品が持ち込まれます。
これらには新しい「フタ」が入れられ、「タガ」を巻直して新品同様に戻ります。
��月には新しい樽太鼓として使われる訳です。
左側が二斗(中)樽太鼓、右が四斗(大)の樽太鼓。



2009年8月24日

樽屋が日経に!?

%E7%AB%B9%E5%8D%81%E9%AD%811.jpg往時の灘・大石浜と「竹十」

日本経済新聞に「たるや竹十」が取り上げられました。

��月12日朝刊「200年企業ー成長と持続の条件」第65回。
毎週水曜日掲載の「200年企業」は人気のシリーズだそうです。

当日の朝は新聞が届く前に問合せの電話で目が覚め、
一日中メールと電話が続きました。樽太鼓、漬物樽、味噌樽などの御注文をたくさん頂きました。

%E7%AB%B9%E5%8D%81%E9%AD%812.jpg「竹十」の初代、竹川重兵衛の名が見えます。明治17年刊「豪商名所独案内の魁」より

ありがとう存じました。

2009年8月13日

「鏡開き」が人気

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左から、「9リットル赤味酒樽」、「9リットル甲付酒樽のフタ抜き」とその「フタ」、
右端が「9リットル漬物樽」

最近、海外で結婚式を挙げる方を中心に、最も小さい9リットルの酒樽を使って
「鏡開き」をしたいという御注文が増えてきております。

確かに着物での挙式となると、昔ながらの杉と竹で出来た木樽が一番でしょう。
かつて「鏡開き」と言えば四斗樽が主流でしたが、今は精酒を沢山呑みませんから
��8リットル(一斗樽)か9リットル(5升樽)を選ぶ方が多くなりました。

酒樽の「鏡開き」の儀式は簡単な作業なのですが、一般の方々にとっては特殊な事なので、
写真の真ん中の樽のように、あらかじめ「ふた」を開いておき失敗を避ける方も多くなりました。
ただ、この方法ですと肝心の「木香」が付きにくいので、どちらを選ぶか悩むところです。

2009年7月4日

明日からツール ド フランス

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いよいよTOUR DE FRANCEの季節になりました。
今年のスタートはモナコです。
二人の日本人が出場、更にランスの復活と第96回のツールは話題が満載。
観に行きたいな。樽屋の女房は何度か観戦したことがあるそうなのです。



2009年7月1日

キュウリが豊作だから漬物樽(タル)を沢山つくる

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どこの菜園でも「キュウリ」が沢山実って、急いで漬物樽(タル)を送って欲しいという依頼が多く続きます。
丁度、六月は酒樽の注文が少ないため、一斗の漬物樽を沢山作り置きしていましたから、
当日か、宅急便の都合で翌日には、お届け出来ます。

胡瓜

Cucumis Sativus 学名のSativusは「耕作の」の意、Cucumisは「うり」の意。
北インド原産、10世紀に日本に渡来するも食品としては余り普及せず、
江戸では寛政年間(1789~1800)から,都では聖護院で天保年間(1830~1843)ころから栽培。
西洋では古代ギリシャ時代から栽培が行われていたもよう。

漢名 胡瓜 黄瓜
独名 Gurke
英名 Cucumber
仏名 Concombre 







酒樽屋の「一年のへそ」

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酒樽屋の一年も丁度半分を過ぎました。
梅雨の真中、あじさいが色鮮やかです。

樽屋の工房の中はひんやりしているので、樽(たる)作りには最適です。
昔の人が、そんな風に設計したのでしょうし、工房の中は「木」だらけですから。
漬物樽、樽太鼓、店舗展示用樽を作る合間に酒樽をつくりました。

今年の夏は暑そうですね。

2009年6月30日

吉野杉を使った木樽の作り方 その10 蓋(フタ)を作る

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一斗樽(タル)の底です。
樽作りには樽丸に次いで底と蓋(フタ)が重要な役割を果たします。
竹箍(タガ)や木栓類も無くなると樽(タル)を作る事が出来なくなります。
順番が逆になりますが、樽(タル)の底に接着剤を使わず、竹釘を使って欲しいという依頼があったので、紹介します。

ハウスシックやアトピーで化学的接着剤に対するアレルギーが甚だしいのだそうです。
木工用ボンドはチューインガムの原料になるくらいですから、口に入れても害はありませんが、アレルギーの方には通用しません。

写真のように、何枚かの吉野杉を竹釘を使って継いで行きます。(「そこはぎ」と謂います)
端の半月形の部分を何故か「ビンタ」と呼びます。
他の底蓋を作る時に余った小さい材料を使えるので重宝します。

「ビンタ」は鹿児島弁の頭部をさす方言からではないかと思われます。
この部分を底蓋(フタ)では木頭と呼び、洩れない為に犠牲になる大事な部分なのです。

2009年6月28日

明治初年の樽屋(たるや)竹十付近

1900_kura.jpg写真「沢の鶴資料館」提供

先の大戦までは、樽屋竹十の前は浜辺でした。
味泥から今津までの灘五郷全域が海に面しておりました。
ここから、樽に詰めた酒を江戸へ運び、江戸からは上方では不足している物を積んで戻っていました。
樽(タル)の材料になる吉野杉の原木も、この浜に着きました。
この広い浜辺を利用して、吉野杉を酒樽に使い易い樽丸に加工していたものです。

なによりも樽屋や作り酒屋にとって、この浜辺は格好の作業場だったのです。
蔵元も今頃の時期は酒造りに欠かせない大桶を丁寧に洗って何本も並べて乾かしておりました。
つい最近までの光景です。





2009年6月27日

酒樽屋の虫養ひ 其の拾貳

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駅前の立ち食い饂飩です。わずか200円!(100円代もありましたが)
「ラーメンた○う」というチェーン店がありますけれど、
ここは「うどん太郎」といいます。電話はないようですが、味は200円以上です。
うどんの丼はこの椀型でなければなりません。
口の広い器に入れて量を多く見せても、饂飩がのびる上に冷め易くなります。
ものの本によれば、饂飩の方が蕎麦よりも遥かに歴史が古いのだそうです。

 闇のとぎれる饂飩屋の前    「武玉川」第二篇




2009年6月26日

酒樽をつくるための材料、樽丸が届く

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奈良県吉野郡川上村から、トラック満載で樽の材料の最も重要な「樽丸」が届きました。
山奥ですから、神戸まで 慣れた人で2時間、我々だと3時間はかかります。
日本有数の雨が多い地域ですが、今年は梅雨らしくなく、杉の生育に影響します。
川上村の吉野杉が樽作りには最上の材料です。
樽酒の香りも全く違います。

今回は甲付の樽丸が不足気味でしたので、余分に積んでもらいました。
どんなに腕の立つ樽職人でも、材料が悪いと良い樽は出来ません。
良い樽丸を使うと仕事も楽ですし、良い樽が出来るので気分が良いものです。



2009年6月25日

酒樽屋は全国へ樽(タル)を発送する

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毎日のように電話やFAX,メールによる樽の注文を頂き、漬物樽、樽太鼓、酒樽.......
それぞれが違う形の樽ですから、作るのも大変ですけれど、梱包にも結構手間取ります。
通販をしている以上は避けられない工程です。

樽は形が丸いので、力強く紐を巻く事は案外むつかしいのだそうです。
樽屋竹十では「菰(コモ)」も巻きますから、その手法を応用すれば梱包は簡単です。
送った樽を褒めて下さったついでに、その樽の梱包まで褒めて下さった方がおられた事があり、
ちょっと恥ずかしい思いをした事があります。
樽屋竹十では海外発送の際は段ボールを用いますが、普段は写真のようにエアーキャップを使います。
面倒な時は専用の段ボール函に詰めてテープを貼って完成という方法も取りますけれど、
さすがに、高さ一尺八寸(約56センチ)の四斗樽(72リットル)は段ボール函に入れると、嵩張るので出来る限り裸で送ります。
稀に気が向いた日には余った菰を使うこともあります。
菰(コモ)は、あくまで輸送用のプロテクターであることを再認識します。
但し、縄だけは作業中に埃は立つし、手は荒れるし、下手に扱うと切れますので苦手です。





2009年6月24日

酒樽屋は頼まれれば変形の樽(タル)も作る

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特殊な注文の樽です。
水を入れ、更に氷も入れて、「缶入の茶」を沢山冷やして、店頭だか何かの催しに並べるのだそうです。
詳しい事は判りません。高さ25センチで、直径55センチ位の樽は出来るかと問われたので、
「出来ます」と答え、翌日は朝から「ハンダルセット」という特殊な樽を原型にして作って見ました。
変わった注文が来ると俄然、元気になります。失敗もありますが、うまく出来上がると
これ程、うれしい事はありません。
静岡の方からの注文の樽だったので、お茶を入れる事には違いないでしょう。

酒樽屋ですから、高さが約56センチ、直径も56センチ以上の樽を作る事は困難です。